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偽りの花嫁 -Decoy Angel- 後編
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このテキストは『偽りの花嫁 -Decoy Angel-』の脚本をサイト公開用に加筆修正したものです。
映像化する上で削除した台詞も含むため、実際の作品とは異なる箇所があります。
* * *
襲いかかる敵に応戦する三人
挑発で敵を引きつけ、次々と繰り出すWSで敵をなぎ倒すドゥルマイユ
離れた場所から三人を狙う狙撃手を確実に射落としていくエフィールゴ
アンジュリークは回復・強化魔法で二人を援護しつつ、スタンやスリプガで敵を攪乱する
三人は驚異的な強さと絶妙なコンビネーションで敵の数を減らしていく
「あんた一人ってことないわよね、援軍は?」
魔法詠唱の合間を縫って声をかけるアンジュリークに、ドゥルマイユが怒鳴り返す
「いねぇよそんなモン!!」
「えぇっ、なんでよ? あんた自分の率いてる隊があるでしょ?」
「っせぇな、そうそう隊員の配置を変えられるか!!」
「だったらなんであんたがここにいんのよ!?」
「ロミディアンの野郎だけじゃアテにならねーだろ」
「ロミディアンさんの悪口はやめてってば!!」
「てめぇ、助けにきた俺より奴の肩をもつのかよ?」
「あんたらこの期に及んで喧嘩とかさぁ……」
「うるさいわね!!」「うっせぇぞ!!」
エフィールゴのぼやきに、アンジュリークとドゥルマイユが声を揃えて怒鳴り返す
エフィールゴがやれやれと肩をすくめる
その時、エフィールゴの視界の端に典雅な法衣をまとった男の姿が映る
「あ、ヤベェなこりゃ…」
エフィールゴが呟いた時、パライガを詠唱する優雅な声が響く
「きゃあっ!!」
電流の走り抜けるような衝撃と共に強力な麻痺状態に陥り、身動きの止まるドゥルマイユとアンジュリーク
「な…、パライガだと……?」
動けぬ身体に歯を食いしばるドゥルマイユ
いち早く男の存在に気付いたためかろうじてパライガの範囲を逃れたエフィールゴがカルバリンを構え、男に向かって弾丸を撃つ
法衣の男が右手をすっと前にかざす
男の身体がまばゆい光球に包まれ、弾丸は一瞬で消滅してしまう
男がわずかに唇を動かすと、ほぼ無詠唱に近い速度で放たれたサンダーIVがエフィールゴを貫く
「ぐッ……!!」
エフィールゴが地に片膝をつく
法衣の男が三人の前に姿を現す
「そこにいるのはドゥルマイユか。我らを護るべき立場の者がなぜ賊と共にいる?」
「あなたは…!!」
ドゥルマイユが驚愕の表情を浮かべる
「え、誰なの?」
事情を飲み込めずアンジュリークが尋ねる
言葉を失っているドゥルマイユの代わりにエフィールゴが答える
「あれはクリストフ・V・アドリアン卿、サンドリア国教会の司教さ。そこの兄ちゃんにしてみりゃお守りすべきご主人サマってとこだ。」
「なんでそんな奴が………」
アドリアン卿は二人には目もくれず、ドゥルマイユだけを見据えて口を開く
「ドゥルマイユ、分かっていような? そなたが取るべき行動はただ一つ。第二王子ピエージェ様の即位は我らが悲願、邪魔者は全て排除せねばならぬ。」
「俺に……こいつらを差し出せと……?」
「ピエージェ様を我が国の頂にと欲するは女神アルタナ様の御心ぞ。我が命令は国命だと思うがよい。」
ドゥルマイユがフッと皮肉な笑みを浮かべる
「国命? こいつらを見殺しにすんのが国の命令だってか?」
「ドゥルマイユ……」
アンジュリークの声に、ドゥルマイユがちらりと視線を投げる
アンジュリークの顔を一瞬だけ見つめると、ドゥルマイユはアドリアン卿の方に向き直り、鋭い目で睨みつける
「国の命令がどうした、そんなもの糞くらえだ。俺は俺が信じたものを守る」
「愚かな………」
アドリアン卿が呆れたように首を振る
「小娘から先に殺れ」
冷たく放たれた命令に、長弓を構えた敵の一人が矢を撃ち放つ
咄嗟にアンジュリークの矢面に立ち、肩に矢を受けるドゥルマイユ
「ドゥルマイユ!!」
膝を折りその場に崩れ落ちるドゥルマイユをアンジュリークが抱きとめる
「下らん茶番だ。守るべき者を取り違えたようだな、ドゥルマイユ。ならばもろとも死ぬがよい」
ドゥルマイユを抱きかかえたアンジュリークがアドリアン卿をキッと睨みつける
その時不意に、凛とした女の声がその場に響く
「彼は守るべき者を取り違えてなどおりません。道を違えたのはあなたのほうでは? アドリアン司教閣下」
同時にザザッと複数の足音が響き、その場にいた全ての敵が武装した神殿騎士団に取り囲まれる
「クリルラさま!!」
姿を現すクリルラに、アンジュリークが驚いて声を上げる
「何の真似だ。そなたらが武器を向けてよい相手だと思うのか?」
アドリアン卿の脅しに、クリルラが真っ向から答える
「我らの使命は国の安寧を脅かす敵を排除することです。あなたは決して踏み越えてはならぬ一線を越えてしまわれた──────誘拐及び殺人未遂の容疑であなたを逮捕します。」
取り押さえられるアドリアン卿
「我を裁けると思うならやってみるがよい。必ずや己が非力を嘆くことになろうぞ!!」
「連れて行け」
部下に命じるクリルラ
ドゥルマイユの元に衛生兵が駆けつけ、地面に膝をつくドゥルマイユの兜を脱がせる
クリルラはエフィールゴに視線を移し、
「エフィールゴだな。お前も脱獄の容疑で再逮捕だ」
エフィールゴが肩をすくめる
「へいへい、オレも無罪放免になるとは思っちゃいねェよ。ちょっとこのお嬢ちゃんと話をさしてもらってもいいかな?」
「よかろう。手短にすませろよ」
エフィールゴがアンジュリークの方に向き直る
「話って何よ…」
思わずひるむアンジュリークに、エフィールゴがニヤリと笑う
「大したことじゃねーんだけどさァ。…あんまりあの兄ちゃんをいじめてやりなさんな、お嬢ちゃん」
アンジュリークはその言葉に面食らう
「な、なによ、あんたに関係ないでしょ?」
「そう言うなって。隊長のくせに勝手に持ち場を離れたんだ、あいつ厳罰処分は逃れらんないぜ」
「えっ…」
エフィールゴはうつむいてしまったアンジュリークをくっくっと笑いながら眺めた。
「そうまでして助けにきた女にガミガミ怒鳴られたんじゃ立つ瀬がねェよなあ。オレあの兄ちゃんに同情するわぁ〜」
「なによっ。悪者なら悪者らしくしなさいよね!!」
「おいおい、気まずいからってオレに当たんなよ」
「別に気まずくなんか…!!」
思わず顔を赤らめるアンジュリーク
「はは、なんか可愛いな。やっべぇオレあんた好みかも」
「な、………」
「てめぇら何コソコソ話し込んでやがる……」
ドゥルマイユが負傷した肩を押さえて苦しそうに声を上げる
「お嬢ちゃんを口説いてんだよ、文句ある〜?」
「……俺にゃカンケーねぇ……」
「だってさ、どうするよお嬢ちゃん」
口ごもるアンジュリークをエフィールゴがにやにやと見下ろす
「おい、そろそろいいだろう。」
クリルラの声に、エフィールゴが肩をすくめる
「あぁ、連れてけよ。色々ありがとよ団長さん」
連行されるエフィールゴを見届けると、クリルラはアンジュリークの前につかつかと歩み寄り、不意にその足元にひざまずく
「クリルラ様!?」
ドゥルマイユが驚いたような声を上げる
アンジュリークも驚きを隠せぬ表情でクリルラを見下ろす
「アンジュリーク様。」
クリルラの声が二人の耳を打つ
「ご無事でなによりでございます。我が隊の者が護衛を仰せつかっていたにもかかわらず、御身を危険に晒してしまい申し訳ございませんでした。全ては上官たるわたくしの責任です。」
アンジュリークは戸惑ったようにクリルラの姿を見下ろした。
(「クリルラ様はずっと前から王子のことが好きなんだ。それなのにぽっと出のお前が我が物顔で城をウロウロしやがって!! あの方がどんな思いをされているか分かるかッ!?」)
ドゥルマイユの台詞が脳裏によみがえる。
不意に泣きたいような気持ちになり、アンジュリークはクリルラの前に膝をついた。
「クリルラさま、お顔をお上げ下さい。わたしのような者にひざまずいたりされてはいけません。」
「なぜでしょう? あなたさまはトリオン様の大切なお方、我らが身を挺してでもお守りせねばならぬお方です。」
「違うんです、クリルラさま。わたしはただの冒険者にすぎないのに……!!」
「身分うんぬんの話ではございませぬ。あなたさまに向けられるトリオン様の笑顔、それだけでもお守りするには十分な理由となりましょう。」
一片の迷いもない言葉。
自分にもこんな恋ができる時がくるのだろうか? ──────決して実らぬと分かっていても、全てを捧げられるような恋が。
気がつくと、アンジュリークはクリルラの上半身をそっと抱きしめていた。
「クリルラさま、では今ひとときだけ対等に言葉を交わす無礼をお許し下さい。」
「アンジュリーク様?」
戸惑ったような声でクリルラが呟く。
「わたしはトリオンさまにこう言われました。クリルラさまの親しき友となってはもらえないかと。トリオンさまはあなたの御身を心から心配しておいでです………クリルラさま。どうかトリオンさまと一度お話をなさってあげてください。」
「…え…」
「わたし、一度でいいからあなたと屈託のないおしゃべりをしてみたかった……。ふふ、トリオンさまがわたしに向ける笑顔とおっしゃいますが、トリオンさまは始終あなたのお話ばかりされていたんですよ。」
「アンジュリーク様……」
茜色の朝日が木々の梢の隙間から差し込み、二人の身体を包み込んでいる。
「ごめんね? 結局あんたの恋路をジャマすることになっちゃったみたい」
宰相ハルヴァーに呼び出され事の次第を報告しに行くことになったアンジュリークは、すれ違いざまドゥルマイユに声をかけた。
「べっつに、かまやしねー。どうせハナから実りゃしねぇモンだったのさ」
「まだ分かんないわよ、今からでも思い切って告白したら?」
「うまくいくなんざ思っちゃいねぇクセに……」
「やん、バレてる〜」
「っとにムカつく女だなオイ!! 」
くすくすと笑うアンジュリーク
「まぁでもアンタには感謝してるわよ。『国の命令がどうした、そんなもの糞くらえだ』っての? あれなんかカッコ良かったよ〜うんうん」
「なっ、復唱すんじゃねぇよバッカ野郎!! さっさとハルヴァー様のとこに行け!!」
「言われなくても行きますよーだ」
ベーッと舌を出し、歩き出すアンジュリーク
「…アンジュリーク!!」
ドゥルマイユの声に立ち止まり、振り返る
ドゥルマイユはアンジュリークに背を向けたまま言葉を続ける
「クリルラ様のこと、…ありがとな」
アンジュリークはふふっと笑い、ドゥルマイユの背をぽんぽんと叩いてその場を後にする
報酬を受け取るにあたり、アンジュリークは幾枚もの誓約書にサインをさせられる羽目になった。城内で見聞きしたことを決して外部に漏らさない──────、そんな内容のものだ。誓約を違えばどうなるか分かっていようなと凄んでみせるハルヴァーを諌めたのは、突然現れたトリオンだった。
「ハルヴァーよ、これは一体どういうことだ? 」
「ど、どういうことだとおっしゃいますと?」
「なぜ余の友人がお前に脅されているのかと聞いておる」
「滅相もない、私はただ──────」
トリオンが机の上に並べられた誓約書の束を覗き込む
「『偽の花嫁候補となりし事実、及び一連の拉致事件に関し知り得た事実の一切を口外しないことをここに誓う』……花嫁候補? 拉致事件?」
トリオンの眉間にみるみる深い皺が刻まれていく
「穏やかでないな、ハルヴァー。拉致事件とは一体なんだ」
「こ、これには深い訳がありまして!! 話を聞いてくださいトリオン様〜!!」
「聞こう、聞いてはやるが、事と次第によってはただでは済まさんぞ。お前は余の友人に何をさせたのだ?」
「トリオンさま、ご安心ください。事件は全て解決したんですから」
アンジュリークのとりなす言葉に、ハルヴァーがほっとした表情を見せる
「そなたがそう言うなら構わんが──────ハルヴァーよ、そなた仮にアンジュが誓約とやらを破ったらどうするつもりなのだ。」
「そっそれは!! …国法に則り、しかるべき処罰を与えるべきかと」
「しかるべき処罰とは刺客を放ち暗殺することをいうのか?」
「めめめ滅相もございません。」
「そうであろうな。余の友人をそのような目に遭わせたらお前の首がなくなると思え。」
「はは〜っ。」
「さて、アンジュリーク。少し二人きりで話をしたいのだが、構わないか?」
「はいっ、それはもう」
王妃ローテの庭に移動した二人
咲き乱れる美しい花々を愛でながら、トリオンが口を開く
「実は先程クリルラから伝言があってな、今宵ここで落ち合うことになっているのだ。」
「わぁ、やったじゃないですかトリオンさま!!」
「はは、余も突然のことで正直戸惑っておる。話があるとのことだが何の話であろうな。あれに負わせた傷のことを責められでもするのだろうか……」
「いいじゃないですか、いっぱいお話を聞いてあげてください。女の子は話を聞いてもらうのが大好きなんですから!!」
「なるほどな。アンジュリーク、そなたは余の知らぬことをたくさん知っているのだな。」
「えへへ。クリルラさまとうまくいくといいですね。」
「…そうだな。なかなかスムーズにはいくまいが…」
「大丈夫、自分を信じていれば願いは叶うんですよ!!」
「本当に君は面白い子だな。そなたの友となれたことを余は誇りに思うぞ。」
城で過ごす最後の夜
荷造りを終え、私室でくつろぐアンジュリーク
(今頃はお二人とも、綺麗なお花に囲まれておしゃべりをなさっているんだわぁ……うらやましいなぁ。)
バフンと音をたててベッドに沈み込む
(あ〜あ、あたしにもあんな素敵な王子様が現れないかな。お城の人達ともこれっきりだろうし……)
城の者は皆、アンジュリークが偽の花嫁候補だったと知っても心から別れを惜しんでくれた。
唯一別れを言いに来なかったのはあの男だ。
(ドゥルマイユの奴…。最後なんだから何か言いにきたっていいじゃないのよ。)
もう二度と会えないのに──────、そう呟きかけて、アンジュリークはふと口をつぐんだ。
気のせいだろうか。なんだか胸に虚ろな穴があいたように感じるのは。
(お城を去るから感傷的になってんのね。寝よう、もう寝よう!!)
羽根布団をかぶろうとして、ふと頬に当たる風に気付く
(あれ、窓閉め忘れたっけ? …って、こんな展開こないだもあったけど…)
「──────よう、お嬢ちゃん」
低い声が突然響く
「エフィールゴ!? あんたなんでここに!?」
エフィールゴが窓際にもたれかかり、腕を組んでいる
「なんでって、脱獄したからに決まってンだろ」
「えぇえ? 今度は何の用よ、あの指輪なら持ってないわよ?」
「なに、ちと忘れモンを取りにきただけさ」
「なによ忘れものって………」
エフィールゴが不意にアンジュリークに近付き、素早くキスをする
「なっ、な、な……!?」
「か〜わいいな、真っ赤ンなっちゃって。このままアンタさらってこっかな。」
「いきなり何言い出すのよ!!」
「イヤか?」
真剣な顔で覗き込まれ、視線を反らすアンジュリーク
「あんたがイヤだってんなら無理には連れてかねぇ。どうなんだ、イヤなのか?」
「──────あたしは…」
「他に好きな奴がいる?」
「……っ」
言葉に詰まるアンジュリークを、じろりとエフィールゴが見下ろす
「はっきりしろよ。でなきゃこのまま連れてっちゃうぜ?」
「……だって、あたしにもよく分かんないんだもん……。あいつとは悪口言い合ってばっかだし、第一あいつには他に好きな人がいるし……」
「そいつが誰を好きだろーが関係ねェよ。あんたがそいつを好きなのかって聞いてんだ」
答えを促すように首をかしげるエフィールゴに、アンジュリークはたっぷり時間をかけて悩んでからようやくこくりと頷いた。
エフィールゴが大袈裟に脱力する。
「…はあぁ〜あ。っだよ、とんだ無駄足踏んじまったぜ。結局指輪も手に入んなかったし、邪魔者はさっさと退散するかぁ」
「ねぇ、待って」
「あんだよ?」
「教えて……なんであの指輪にそんなにこだわるの?」
ヘッ、とエフィールゴは唇の端を持ち上げて苦笑した。
「知りてェ? アイツでなくオレを選んでりゃ教えてやらんでもなかったがな。まぁあんたにゃ関係ないハナシさ。じゃあな、お嬢ちゃん」
エフィールゴが開け放たれた窓から出て行く。アンジュリークが窓辺に歩み寄ると、外からエフィールゴの声が耳に飛び込んでくる
「アンジュリーク!!」
離れた場所からエフィールゴがアンジュリークに向かってびしっと人差し指をつきつけている
「次があるならオレが主人公な!! メロメロにしてやんぜ!?」
姿を消すエフィールゴ
翌朝。
まだ夜の明けきらぬ早い時間に、アンジュリークは自分にあてがわれた部屋を後にした。
見送りはしないでくれと周りの者には告げてある。
色々あったが、城での生活は楽しかった──────。アンジュリークは凱旋門の手前で立ち止まり、大きくのびをした。
この門をくぐれば、自由きままな冒険者の生活がまた始まる。
(びっくりするようなことの連続だったなぁ……いきなり指輪泥棒と間違えられたり、王子様の花嫁候補にされちゃったり……)
よみがえる様々な記憶にアンジュリークがふふっと微笑む。
ふと脳裏をよぎる男の姿に、アンジュリークは無意識のうちに呟いていた。
「あいつ幸せになれるといいな…」
ガラにもない自分の台詞に我に帰り、照れ隠しのようにくるりと振り向いたアンジュリークは、視線の先にそびえ立つドラギーユ城に晴れやかな笑顔を向けた。
(さようなら、サンドリア。またいつか遊びにくるね)
抱えきれないほどの思い出を胸に、アンジュリークが新たな一歩をゆっくりと踏み出していく。
【ナレーション】
こうして王城を騒がせた誘拐事件は幕を閉じたのだった
平穏を取り戻したサンドリア──────美しき王国にいつもと変わらぬ朝日が昇る。
その平穏の陰に一人の冒険者の活躍があったことを知る者は少ないという………
(暗転)
(音楽フェードアウト)
「やっぱり夜明け前に発つんだな。早めに張り込んどいて正解だったぜ」
突然のドゥルマイユの声に、アンジュリークは驚いて顔を上げた。
凱旋門の石壁にもたれかかるようにしてドゥルマイユが立っている。
「な!? あんた何してんの!?」
「見て分かんねぇ?」
「分かんないわよ!! 今更寂しくなったとかいうんじゃないでしょうね?」
「ンなわけねぇじゃん、バッカじゃねぇの」
「だったら何よ、お別れも言いにこなかったくせに!!」
「昨日来れなかったのはしゃあねえだろ、俺だって忙しかったんだ。オラ、さっさと行くぞ」
「は?……えっ?」
「ニブい女だな。俺も一緒に行くっつってんだよ」
アンジュリークはぽかんと口を開けた。
「な、なんで?」
「お前な、それを俺に言えってのか?」
ドゥルマイユが大袈裟に溜め息をつく。
「俺はクリルラ様をお守りするために騎士団にいたんだ、他に守ってもらえるアテができたなんて言われた日にゃ居続ける理由がねぇんだよ!! お前のせいだぞ、責任取れよな!!」
「せ、責任取れとか、それって男が言う台詞じゃないわよね?」
「お前オトコオンナなんだからいいじゃねぇか。こういう台詞言われて燃えるクチだろ?」
「し…しっつれいな奴!!」
「顔が笑ってるぜ、ほんとは嬉しいくせに」
「う、嬉しくなんか……!! 」
真っ赤になるアンジュリークを見てドゥルマイユが笑い出す。
「行こうぜ、アンジュリーク。あ〜ちなみに、俺一度も他国に行ったことねぇから。分かんねぇことは丁寧に教えろよ?」
「ふんだ、ビシバシ鍛えてやるから覚悟なさい!!」
「こえぇ〜。さっすがオトコオンナ」
「その呼び方今すぐやめないとしばき倒すよ!!!」
ぎゃあぎゃあとわめきながら二人が門をくぐる。
アンジュリークの胸に空いていた虚ろな穴は、いつの間にか塞がっていた。
久しぶりの冒険者の生活は、随分と賑やかなものになりそうだ。
- END -
